【わたしの苗字博物館(ミョージアム)】二位鈴木さん

①イントロダクション

全国の鈴木家の多くは熊野速玉神社(和歌山県新宮市)の神主だった穂積(ほづみ)氏の一族

②起源

日本で二番目に多い苗字ではないかといわれる鈴木氏は、紀伊国(和歌山県)から発祥した系統で、熊野速玉神社(和歌山県新宮市)の神主だった穂積氏の一族が鈴木姓を名乗ったことに始まります。

穂積氏から分家した家が鈴木という苗字を名乗ったのは、和歌山県の方言で「稲穂を積み上げる(穂積)」ことを「すすき」ということにちなみ、これに神様が天から降り下るときに目印とする木(これをより代(しろ)といいます)と神がその木に宿ったときに鳴る鈴の文字を当てて、鈴木という苗字を創作しました。

後に鈴木氏は本拠地を現在の和歌山県海南市に移し、同地の藤白神社の神主となります。その一族から源平合戦(治承の内乱。1180-85)のころ源義経の家臣となった鈴木三郎重家が現れ、重家の末裔は東北から関東・東海地方にかけて広がりました。

東海から関東・東北に広がった鈴木一族はなまって「すずき」と発音しますが、和歌山県や三重県の旧家の鈴木家では現在も濁らずに「すすき」と言っています。

③分布

※2019年NTT電話帳調べ
都道府県 件数 順位
全国 312798 2
北海道 14616 4
青森県 2560 14
岩手県 5073 10
宮城県 12663 3
秋田県 7146 5
山形県 10353 3
福島県 18475 2
茨城県 16136 1
栃木県 8541 1
群馬県 4237 6
埼玉県 19705 1
千葉県 23766 1
東京都 25897 1
神奈川県26038 1
新潟県 6555 5
富山県 465 88
石川県 545 73
福井県 938 24
山梨県 2037 9
長野県 3013 22
岐阜県 4151 9
静岡県 40843 1
愛知県 32759 1
三重県 4370 5
滋賀県 902 35
京都府 1902 33
大阪府 4103 30
兵庫県 2751 40
奈良県 882 49
和歌山県1291 14
鳥取県 335 70
島根県 117 117
岡山県 1083 59
広島県 1012 81
山口県 475 121
徳島県 426 74
香川県 744 47
愛媛県 1834 25
高知県 280 153
福岡県 1142 115
佐賀県 104
長崎県 394 156
熊本県 322
大分県 390 127
宮崎県 1066 28
鹿児島県377
沖縄県 84

分布をみると、全体的に東日本に多く、西日本に少ないです。

関東地方に特に多く関東7県(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)中、群馬県(6位)を除く6県で一位です。

47都道府県の内8県で一位の苗字となっている鈴木さん。関東6県以外の2県は静岡県と愛知県です。

この分布にもちゃんと理由があります。

和歌山から発祥した鈴木姓の一族から源平合戦(治承の内乱(1180-85)のころ源義経の家臣となった鈴木三郎重家が現れました。重家の末裔は東北から関東・東海地方にかけて広がったため今でも関東・東北に鈴木姓が多いのです。

余談ですが、現在では日本一多い苗字は佐藤姓と知れ渡っていますが、以前は長い間鈴木姓が一位と認識されていました。これは、苗字調査が首都圏に偏ったためと言われています。

では、静岡県と愛知県はどうでしょう?これも重家の一族である鈴木重善が三河国加茂郡矢並郷(愛知県豊田市矢並町)に移り住み、熊野信仰を広めたことで鈴木姓が広まっていきました。

④家紋

鈴木姓は本姓穂積氏にちなんだ「稲穂」や「藤」といった家紋を愛用します。

⑤苗字調査の具体例②『姓氏家系大辞典』

まずは日本の代表的な苗字辞典『姓氏家系大辞典』(太田亮著、角川書店)の鈴木の項目を見てみましょう。

少し読みずらいですが、少しずつ読み込んでいきましょう。

まずいきなり

「天下の大姓にして、族類の多き事、他に其の比を見ず…」

とあります。

そして

「その発祥地はほとんど熊野…」
「熊野信が朝野の崇敬を集め…」
「随従して各地に移り、勢力を振ひしに…」

「朝野」だけアサノさん人名なのかなんなのかわかりにくいですが、おおよそ

熊野神社が全国に信仰を広めていく過程で鈴木姓が増えていった

と解釈できます。

「朝野」のようなわかりにくい言葉はググりましょう!
調べてみると読みは「チョウヤ」、意味は「朝廷と民間」あるいは「世間」ということがわかります。

次に、鈴木姓の項目を見てみると75項目もあります。
佐藤姓の58項目をしのぎました。

1の項目には

「穂積姓 紀州熊野の豪族なり…」

と、あります。

豪族という言葉も知っているようでよくわからないので調べてみると

「一般的には、地方に居住し権勢を有する一族」
「ただし時代とともに概念が変わり、江戸時代以降では豪農・豪商が豪族に代わる言葉となる」

少しずつ知識を広げていくと楽しいです。

では次に「穂積姓」

これは同じく『姓氏家系大辞典』のホズミの項…ではなくホヅミの項を見ます。

「太古以来の大族…」
「物部氏と同族…」
「大和国山邊郡穂積邑より起こる。」
「物部氏」っていうのは歴史の勉強に出てきましたね!
『姓氏家系大辞典』で「モノノベ」も見なければなりませんね。
「大和国」は奈良、「穂積邑」の「邑」は「村」の事です。

穂積姓の項目を読み進めると17項目たっています。
14項目目に「紀伊の穂積氏」…これですね。

いきなり

「スズキ、ウキ、ウドノ、エノモト、クマノ等の條(条)を見よ」とあります…。

これは大変です!
一つ一つは後に調べるとして一旦鈴木姓のページに戻りましょう。

1穂積姓のところを流し読むと

「榎本の氏を賜り…」
「宇井薫(丸子氏)、鈴木薫の名は…」

などとあります。

鈴木姓は榎本や宇井、丸子という苗字ともかかわるようですね!
苗字研究科になりたい!というのでなければ、根を詰めず流し読みしましょう。

流し読みをするときは、キーワードを決めて流し読みしましょう。

キーワードとすべきはいったい誰がその姓を名乗ったのか?

1穂積姓を少し読み進めると

「三男基行は…これによりて穂積の氏を賜る。」
「鈴木氏は此の基行の後裔なりと云ふ。」

とあります。

まず「基行」なる人物が「穂積」を名乗った(賜った)ことがわかりました。

では、だれが鈴木を名乗り始めたのでしょう?
「基行」をキーワードに読み進めましょう。

「今亀井の系図等によれば…」

とあり、家系図が載っています

「宇摩志麻遅命-(この間24代中略)-基行」

「基行」の先祖は宇摩志麻遅命。ググると読みは(うましまぢのみこと)、『古事記』『日本書紀』に記載の人物。

気が遠くなるくらい昔の神話の時代の話にまでさかのぼれるようです。

さらに「基行」をキーワードに読み進めると

「鈴木基行より二十余世を経て、鈴木判官真勝あり、…」

と出てきます、ここでかかれている「鈴木基行」の鈴木は後付けで書かれたと判断し、「鈴木判官真勝」なる人物で初めて「ホヅミ」を同意味の「スズキ(ススキ)」に読み替えて鈴木姓が登場したようです。
もう少し読み進めるとまた時代を経て源義経の家臣となった鈴木三郎重家が登場します。

さて…、まだまだ『姓氏家系大辞典』で鈴木姓について調べ進めることはできますが、かなり苦しい作業でもあります。

では、どうしたらいいでしょうか?

少し楽をするには

・市販の苗字辞典を見る
・ググる

いずれでもいいです。

鈴木氏についてわかりやすく説明された本やサイトはいくらでもあります。

最初は例えば「日本の苗字ランキング100選」といようなタイトルの軽い雑学をして苗字をテーマとしたもので十分です。
基本的な苗字の由来などはこれでわかります。

もう少し詳しく知りたければ、丹羽基二氏、丸山浩一氏、森岡浩氏といった著名な苗字研究科が書かれた、少し専門的な本を読むといいと思います。
さらに詳しい苗字の歴史を知ることができます。

例えば分布をよく見ると下記のような疑問が浮かぶかもしれません。

問1、なぜか沿岸部により多く広まっている。
問2、なぜ発祥した和歌山県(1291件で14位)より、関東や北海道の方が鈴木姓が圧倒的に多いのだろう?

少し専門的な本を読むと、上記のような疑問にも答えを出してくれます。

回1、熊野神家が水軍を持っていたため水路も活用し全国に広がった。そのために沿岸部に特に多く広がった。
回2、鈴木姓は熊野神社の分社とともに広まっている。熊野詣が困難な地方にこそ分社が必要だったため。

では、最初から『姓氏家系大辞典』ではなく、もっと簡単な苗字辞典を見ればいいのでは?

こんな疑問も浮かぶかもしれません。
その通りです。

ですが、『姓氏家系大辞典』が現在の苗字研究の礎となっています。
立命館大学教授の太田亮氏が資料の収集に40年、執筆に6年以上かけたと言われる本です。

市販の雑学系の苗字辞典を見た後に『姓氏家系大辞典』をみると、「なるほどなぁ~、これが出典なのか~」ということがよくわかります。

名字の事を考える時には、その名字研究の歴史と、研究して残して下さった方々の労力にも敬意を払いたいと考えます。

もっと言えば『姓氏家系大辞典』の研究材料となった『尊卑(そんぴ)分脈』(中世最大の系図集)、『新撰姓氏(しょうじ)録』(平安初期に成立した古代氏族の系譜集成)、幕府が編纂した『寛政重修(ちょうしゅう)諸家(しょか)譜』(江戸幕府編纂)、『系図纂要(さんよう)』(幕末の国学者飯田忠彦氏編纂)など、

いつの時代も日本が名字を愛し大切にしてきた歴史を感じるのも名字調べの醍醐味かもしれません。