【「1000年たどる家系図の物語 シャドウサイド」】序章 源静香(みなもとしずか)がやって来た①【家系図の漫画・小説】

役所には、自分の戸籍がある。戸籍には自分の父ちゃんや母ちゃんが載っている。
父ちゃんや母ちゃんの戸籍には、その父ちゃんや母ちゃんが載っている。
もっと古いご先祖様の戸籍も、全国のどこかの役所に眠っている。
順繰りにたどっていけば、誰でも江戸時代末期くらいまでの家系図が作れる。


江戸時代末期っていうと、150~200年くらい前で、竜馬とか西郷どんの時代。
父ちゃんが1代上、じいちゃんが2代上とすると、だいたい4~5代上くらいのご先祖様の時代だ。
江戸時代のご先祖様の事が戸籍で判明すれば、かつて武士だったのか?農家だったのか?商人?神主?住職?…その暮らしや、さらなる調査方法も見えてくる。

時には1000年さかのぼり、源平藤橘まで40代さかのぼったの系図が作れることもある。
ウチは家系図作成業務を行っている。まぁ、こんな家系図を作ってるわけだ 


「もしもし…えーと。家系図?ってやってます?よね?」
明るくて早口。若い女性。
電話代横の120㎝水槽の水が輝く。30㎝ミドリガメのミドリ―がお昼寝。15年前、酔っぱらって、UFOキャッチャーで取った時は、500円玉より小さかったんだが。
「はい。ホームページ見てくださったんですかね?」
「近所に住んでて、看板見てホームページ見ました」
はきはきと元気な声。思わず受話器をちょっと離したが、不快感はない。キンキンと声が漏れるのだろう、サクランボを食べていた妻と娘達と昼寝中の猫達がこっちを見る。
「人によってご希望や、事情が様々です。何点かお伺いしてよろしいでしょうか?」
「うん。いいよ」
タメ口か…。まぁいいや。屈託なくていっそ気持ち良い…と、思おう。


家系図の相談を受け続けて10年。何点か聞けば状況は理解できる。
 Q1、何代前までのご先祖様を知っているか?(父母を一代前とする)
 Q2、ご先祖様が江戸時代に住んでいた場所は知っているか?
 Q3、ご先祖様が住んでいた地の同姓の方、すなわち親族様とお付き合いはあるか?
 Q4、ご先祖様のお墓やお寺は知っているか?
 Q5、ご自宅の仏壇などに過去帳はあるか?
 Q6、家紋は知っているか?
 A1、2代前…すなわち、おじいさんのお名前まで。
A2~6、全くわからない。
 知らない尽くしだが、珍しいことではない。家系についてなど、たいていの人は普段、意識しないだろう。僕も、じいちゃんの名前すら知らなかった。
 ただ、知らないことばっかり答えさせて、ちょっと申し訳なかった。最後まで明るい声で、ハキハキ答えてくれたが、ちょっとトーンが落ちてしまったようだ。
「すいません。いろいろうるさく聞いてしまって。ですけど、普通そんな感じです。たいていの人は普段は家系とか意識しないですし…」
「あっ!そうなの!そーか。良かった」
 元気になった。良かった。
「頼みたいんだけど、どうすればいいですか?」
「ああ…えーとですね、その前に料金とか内容とか…」


「知ってる。ホームページも見たし、テレビ出てるのも見たことあるし、猫とか子供とか出てるブログも見たし。両親の家系を調べたいから。それでお願いします」
 …そうでしたか。失礼しました。
「でも、きっちりご説明するか詳しい資料をお送りしてから…」

「今前にいます」
ここは北海道札幌のはじっこ。清田区里塚緑ヶ丘(さとづかみどりがおか)の住宅街。梅公園という通称で有名な平岡公園がある。本州よりひと月遅い、桜の時期が終わった5月。今年も見事な梅が咲いている。
 2階から外を見ると、スマホを耳に当てメタリックグリーンの折り畳み自転車にまたがったポニーテールの女の子と目が合った。女性客も、お若い客もさほど珍しくはないが…どう見ても高校生か大学生、まさか中学生?